世界のBIDマネージャーが集結する、エリアマネジメント国際会議 「World Towns Leadership Summit 2019」

アメリカで活動するIDA(International Downtown Association)と全国エリアマネジメントネットワークが共催する「World Towns Leadership Summit 2019」は、世界各地のBID(Business Improvement District、ビジネス活性化地区)マネージャーが集結する国際会議です。スコットランド・エジンバラ、スウェーデン・マルメ、ドイツ・ベルリンでの開催に続き、第4回目となる今回はアジア初の開催地として日本が選ばれ、5月13日からの5日間、東京・大阪・京都の3都市で開催されました。DMO東京丸の内で行われたオープニング・トークから、虎ノ門ヒルズフォーラムに約200名の参加者が集まった「Knowledge Sharing Forum」まで、記念すべき初日の全貌をレポートします。

日本のエリアマネジメント活動の軌跡を辿る

5月13日午前9時、DMO東京丸の内には世界各国のBIDマネージャーが一堂に会しました。IDAのCEOを務めるデイヴィッド・ダウニー氏が挨拶を述べたのち、全国エリアマネジメントネットワーク副会長の保井美樹氏は、今回のサミットにおいて、公共空間、コミュニティ・エンパワメント、イノベーション、地域の成長を促進する社会変革に関するナレッジの共有に重点を置いているとし、世界中から集まった参加者との議論に期待を寄せました。

まずは世界各国のBIDマネージャーたちに、日本のエリアマネジメント活動への知見を深めてもらうべく、4名の登壇者によるオープニング・トークで、サミットが幕を開けました

最初を飾ったのは、全国エリアマネジメントネットワーク会長・小林重敬氏。日本のエリアマネジメントの軌跡を辿るべく、これまでの活動を紹介し、今後の抱負についても述べました。

これまで、大都市を中心に日本各地に点在する41のエリアマネジメント組織は、地域の価値を高めるために、課題の解決やリソースの活用、官民連携でまちの活性化を行うことを軸に活動を展開してきました。今後はそれらを発展的に行うことに加え、「地球環境問題や防災・減災問題が中心になるのではないかと思っている。前者は平常時の対応であり、後者は非常時の活動。双方を合わせて進めていきたい」と小林氏は話しました。

未来への抱負について、丸の内仲通りを使って行われた二重橋スクエアオープン記念イベント「ロングテーブル“絆 KIZUNA”」、旧芝離宮恩賜庭園で開催された夜会など、まちの賑わいを創出するために行われてきたさまざまな事例を挙げ、「近年は、全国各地で公道や公園を使った活動が活発化している傾向にある」と小林氏。イギリスのRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)と東京大学生産技術研究所がタッグを組んで実現した社会人のための教育プログラム「DESIGN ACADEMY」を紹介し、「新しいナレッジビルディングやクリエイティブを地域に持ち込む活動もエリアマネジメント活動の一環と考えている。将来的には、これらの活動にも注力していきたい」と語りました。

続いて、大丸有エリアマネジメント協会事務局長・藤井宏章氏が登壇し、「大丸有地区でのエリアマネジメント活動による都市活性化」と題したプレゼンテーションを行いました。

冒頭、藤井氏は各国のゲストに向けて、大丸有地区の概要を説明し、自身が開発推進部理事 エリアマネジメント室長を務める三菱地所がこの地区の主なデベロッパーとして、管理・運営を担ってきたことを説明しました。

1988年の「大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会」設立から、2000年の「まちづくりガイドライン」発行以降、地権者との合意のもとに再開発が進められてきた大丸有地区は、この15年ほどで店舗数が約3倍に増えるなど、大きな発展を遂げてきました。発展の最たる例は、丸の内仲通り。1967年当時、銀行が軒を連ねるビルで埋め尽くされ、平日の夜や週末はゴーストタウンと揶揄される様相を呈していましたが、現在は歩行者中心の空間を拡大し、東京都と警視庁の協力のもと、車両の交通規制が実施されています。通り沿いには、洗練されたレストランやブティックが立ち並び、ラジオ体操や綱引きなど、さまざまなイベントが開催され、多くの人で賑わいをみせています。今回のワールドサミットの2日目にあたる5月14日から100時間限定で、約100メートルの天然芝を張った公園「MARUNOUCHI STREET PARK」の開催を紹介し、見学することを呼びかけました。

そして2017年4月に発足された大丸有地区への都市型MICE誘致促進を目的とする組織「DMO東京丸の内」を紹介し、「地域を変えるためには、未来のビジョンを地権者と地方自治体と共有することが重要。活発なマネジメントが、地域を活性化させるためのカギ」と話し、プレゼンテーションを結びました。

その後、龍谷大学政策学研究科教授の青山公三氏が登壇し、日本のエリアマネジメントの課題について「大阪版BID」の例を引用して解説しました。

欧米諸国のBIDと日本のエリアマネジメントには、地域の不動産価値と生活の質の向上を目指して民間主導で活動を行うといった共通点はありますが、「大きな違いは、2018年まで、日本には欧米諸国のような国家レベルのBIDシステムがなかったこと」と青山氏は話し、日本で初めて条例が成立したケースとして「大阪版BID」を例に挙げ、日本でのBID制度の運用に関する課題について述べました。

大阪版BIDは、既存の都市再生特別措置法などの法律の一部を2014年に施行した大阪市エリアマネジメント活動促進条例でつなぎ合わせて構成されています。事業者からの分担金を充てられるのは街灯やベンチの設置、警備員の配置など、公共空間での非収益事業のみのため、収益活動に関しては、寄付金や事業者の資金でまかなう必要があります。また、企業からの寄付についても、欧米のような税制優遇はありません。

そのような状況下でも、「グランフロント大阪TMO」は大阪版BIDの制度を初めて適用したエリアマネジメント団体で、大阪版BIDの適用地区の中心部に建つ大規模複合施設「グランフロント大阪」にオープンカフェを設置するなど、賑わいの創出に取り組んでいます。「エリアマネジメント活動をサスティナブルにするためには、必要な財源の確保が非常に重要。昨年、政府が新しいエリアマネジメントの負担金制度を創設した。日本が向き合わなくてはならない課題はさまざまにあるが、この制度によってエリアマネジメント活動が活性化されることは、大いに期待できるだろう」と青山氏は述べました。

オープニング・トークの最後に登壇したのは、内閣府地方創生推進事務局審議官の中原淳氏。 昨年、政府が創設した「地域再生エリアマネジメント負担金制度」の概要について説明しました。

これは、賑わいの創出、地域経済の活性化を実現することを目的とし、エリアマネジメント団体の安定的で公平性のある財源を確保するためにつくられた官民連携の制度です。3分の2以上の事業者の同意を要件として、市町村が活動区域内の事業者から負担金を徴収し、エリアマネジメント団体に交付するというもので、イベントの開催や情報発信、オープンスペースの活用、巡回バスの運行など、地域の来訪者や滞在者の利便性を増進し、それによって経済効果の増進が図られる民間団体による活動を対象としています。

最後に中原氏は、「地域再生エリアマネジメント負担金制度は、地域経済の活性化を一番の目的としている。適用第1号の誕生を目指して、各地のエリアマネジメント団体や市町村の支援を続けていきたい」と今後の展望についても語りました。

質疑応答の時間では、4人の登壇者によるプレゼンテーションの内容について、各国のBIDマネージャーからさまざまな質問が挙がり、活発な意見交換が行われました。

タイムズ・スクエアのBID成功の鍵とは

同日午後14時からは、虎ノ門ヒルズフォーラムで「Knowledge Sharing Forum」が開催されました。200名の参加者で熱気が高まる中、IDA(International Downtown Association)前会長であり、タイムズ・スクエアのBID組織「タイムズスクエア・アライアンス」の代表を務めるティム・トンプキンズ氏の基調講演からスタートしました。

「公共空間、官民パートナーシップ、公益のための問題解決」と題したプレゼンテーションの冒頭、トンプキンズ氏はこう語りました。「BIDやエリアマネジメント団体にとって重要なのは、それぞれの地域が違うということをまず認識すること。地域が違えば人も違い、課題もさまざまに違う。その地域なりのソリューションが必要になる」――課題解決の方法として、地域の情報を集めること、オーセンティックな地域アートや文化をキュレーションし、守っていくこと、ステークホルダーやデベロッパーの合意と信頼を得ること、新しいアイデアやイノベーションを実験的に試みるためのパートナーになること、イデオロギーよりもデータ分析や調査を活用することなどを挙げました。
答えはひとつではないけれど、「地権者、行政、民間、企業などとインタラクティブなコミュニケーションを図り、信頼関係を築いていくこと」「その地域ならではの特徴や強み=“個性”は何なのかを理解し、それに関する情報を集めて整理し、広めていくこと」は、どの地域にとっても重要であると話しました。

今や世界的な公共空間として親しまれているタイムズ・スクエアですが、1980年代はアメリカで最も危険な場所と言われ、タイムズスクエア・アライアンスが設立された1993年当時も治安の悪さと不衛生に悩みを抱える地域でした。タイムズスクエア・アライアンスは、治安向上のための警備活動をはじめ、路上照明の強化やビルのライトアップ、ゴミ箱や消火栓の塗装など安全で美しく、フレンドリーなまちづくりのための活動を続けていきました。さらに、公共空間の改善に向けて、既存の資産を使ったアートプロジェクトを次々と展開し、アートやカルチャーをタイムズ・スクエアに持ち込んでいきました。言い換えれば、アートやクリエイティブの力を活かして既存資産への気づきや注目を集めることで、この地域と人々とのつながりを築き上げていったのです。

特筆すべきもう一つの取り組みは、ニューヨークの中心を貫く大通りであるブロードウェイで実現した歩行者天国です。かつてのタイムズ・スクエアは交通渋滞が激しく、歩行者が歩けないほどの危険な混雑が問題視されていました。この地域を利用するすべての人にとって、“質の高い公的空間”をつくるために、トンプキンズ氏らはニューヨーク市やニューヨーク市交通局をはじめ、工業構想の担当者たちと話し合い、調査と実験を繰り返しました。
2009年夏、自動車道を歩行者専用道に転換するという試みが実施されて以来、従来のおよそ2倍の広さになったタイムズ・スクエアの歩行者天国には、テーブルやチェア、オープンカフェなどが立ち並び、世界中から訪れる人々の憩いの場となっています。

「エリアマネジメント活動は、その地域に集う人々が利用することを前提に考えることが重要。でなければ、広場や公園など、あらゆる公共空間は役立つものにはならない。その地域ならではの特徴を活かし、公共空間での活動という強みを活かしながら、実際に現場で起きていることを観察・分析する。必ずしもうまくいくとは限らないし、リスクもあるが、とにかくやってみること。それによって、新しい発見があり、新しいものが生まれていく。複雑な問題をその地域に関わる人々と共有し、解決策を見いだすことには多くのエネルギーを要するが、それだけの価値があるものだと思う。“地域の個性”には、人々の思いが重なる。思いが重なると、地域のそれぞれの場所とつながっていくことができるのだから」

世界各地のエリアマネジメント活動の実態

続いて、カナダ、アメリカ、南アフリカの3カ国のBID組織の代表たちが登壇し、各国のエリアマネジメント活動について紹介しました。

左:DVBIA(Downtown Vancouver Business Improvement Association)代表 チャールズ・ガウディエ氏
中央:DPOB(Downtown Partnership of Baltimore, Inc.)代表 カービィ・フォウラー・ジュニア氏
右:CCID(the Cape Town Central City Improvement District)代表 タッソー・エヴァンジェリーノ氏

1, バンクーバー(カナダ):人を誘う公共空間づくり
1990年に設立したDVBIA(Downtown Vancouver Business Improvement Association)は、不動産所有者やテナントなど約8,000人から成るエリアマネジメント団体です。その代表を務めるチャールズ・ガウティエ氏は、「ここ数年は、路地を整備して人がアクセスしやすい場所をつくるなど、より良い公共空間づくりに注力してきた」と話します。中でも、不動産所有者の許可を得て、床をパープルやイエローのポップなカラーに塗り、街中に設置したバスケットコートは大きな話題を呼び、ネット上で300万PV以上の反響があったのだそう。
「DVBIAは、今後10年間をかけてBIAのリニューアルを行う予定で、現在の年間予算330万ドルの倍増を目指している。従来の安全・清潔、美化活動に取り組みながら、フェスティバルやイベント開催にも力を入れていきたい」と話しました。

2, ボルチモア(アメリカ):ダウンタウンの環境整備・経済発展を支援
続いて、DPOB(Downtown Partnership of Baltimore, Inc.)代表のカービィ・フォウラー・ジュニア氏が登壇し、1970年代に始まったアメリカのBID組織の発展について解説しました。当初は、安全・清潔、マーケティングとプロモーションが主な活動でしたが、現在アメリカ各地にある1,500のBID組織は、設備改善、都市計画、交通管理、社会福祉など、まちの成長エンジンであるダウンタウンを活性化するためのより幅広い活動を担うようになっています。人口統計局のデータによると、市庁舎から4マイル圏内のダウンタウンに暮らす人は、アメリカ総人口の17.5%を占める5400万人にものぼると話します。
「ダウンタウンでは、ホームレス人口の増加や住宅費の高騰、近隣の地域との政治的な問題などがある一方、私の考えでは、アメリカ政府はインフラ整備や交通整備に十分な投資していないという現状がある。DPOBとしてできることは、経済発展の促進をはじめ、住人の雇用問題や健康改善などに取り組むこと、そして、ダウンタウンの既存の住人はもちろんのこと、新たな住人を大切にしていかなければならないと考えている」

また、フォウラー・ジュニア氏がエグゼクティブディレクターを務めるDMA(Downtown Management Authority)は、ボルチモアで最も歴史ある最大のBID組織です。約1,400の不動産所有者が参加しており、それらの人々から不動産評価額の100ドルにつき22セントを搬出金として徴収し、美化・清掃活動をはじめとした組織の活動資金に充てています。最後に、今年10月28日から3日間、ボルチモアで開催されるIDAの年次カンファレンスを紹介し、「ぜひ皆さんとボルチモアでお会いできることを願っている」と来場者に呼びかけました。

3, ケープタウン(南アフリカ):「24時間経済」をミッションに掲げた事業整備
ケープタウンでは、BID制度は、CID(City Improvement District)の名称で親しまれています。CCID(the Cape Town Central City Improvement District)代表のタッソー・エヴァンジェリーノ氏は、「複雑な歴史背景を持つケープタウンにCIDをつくるには、かなりの時間を要した」と話します。2000年ごろから徐々に発展し、現在では計43のCID組織が活動しています。これまでCIDには累計15億ランド(*)が投資されており、2018-19年度の総予算は、2億1700万ランド。対象地区の不動産所有者から、市が負担金を徴収し、CID組織に交付される仕組みになっています。
(* ランド=南アフリカの通貨)

現在、CCIDが管轄する4つの地域には1,200棟以上のビルが建ち並び、2,000社を超える企業と1,000店以上の小売店が存在しています。1日あたりの流入人口は約35万人、小売店の稼働率は93%。建設中や計画段階の建物もありますが、この地域の不動産価格は、2005年時に比べて約7倍にまで高騰しているのだそうです。

「CCIDの予算約6600万ランド(2018-2019年度)の50%を占めるのは、安心・安全に関わる活動。次いで、都市管理13%、社会開発9%、コミュニケーション4%という区分になっている」とエヴァンジェリーノ氏は話し、各活動の事例を紹介しました。ケープタウン市との協力のもと、大小さまざまな修理業務も行っており、2007年12月に約9,000件の問題点があると報告を受けた際には、特別なプログラムをつくり、年間1,000件を超える修理業務を達成しています。年間4トンにも及ぶたばこの吸い殻の回収、不法投棄された粗大ごみの始末など、清掃活動も活発に行っています。なかでも、「予算は最も少ないが、インパクトは最も大きい」と氏が話すのが、コミュニケーションにおける活動です。ウェブサイトでの情報発信やデータ収集に加えて、ダウンタウンの状況を紹介する出版物「セントラルシティガイド」を四半期ごとに5万部発行していると紹介しました。

課題はさまざまにありますが、7月からは「24時間経済」を新たなミッションとして、研究・データ収集に力を注ぎながら、ビジネスプロモーションや投資活動の促進にも取り組んでいくとのことでした。

既存のBIDをベースにした独自の取り組み

次に、欧米各国のBIDを参考にしながら、独自の取り組みを行っているスウェーデンと韓国の代表者が登壇し、その活動内容についてプレゼンテーションを行いました。

左:Swedish Downtown Association代表 マーレーン・ハッセル氏
右:リー・ウン・ヨン氏

4, スウェーデン:活動の焦点を絞り、BIDの発展を目指す
Swedish Downtown Associationは、地方自治体、労働組合、交通行政、サービス業、不動産連盟など、202の組織や企業が参加する非営利団体です。主な活動は、BIDをはじめ、イギリス発祥のPurple Flag、QMやPULSの支援、都市管理・都市経営などについての教育、「ベストシティオブ・ザ・イヤー」アワードの提供、ロビー活動など多岐に渡ります。

「現在、スウェーデン各地でのBID活動は、参加者の自主的な意志と計画のもとに行われているが、政府が10の国家当局で持続可能なまちづくりのための委員会を設置するなど、官民の協力関係を促す動きも見られている」と同団体の代表・マーレーン・ハッセル氏は話します。

「PILOT BID 2015-2017」は、ヴェルムランド県とダーラナ県で行われたBIDのパイロットプログラムです。自治体との協力体制や戦略はあるかといった状況を確認しながら、8つのステップで進めていき、うまくいったケースが3件ほどあった一方、5件は活動していくための組織体制が十分ではなかったという結果でした。今後は、地域ブランド、地域環境、アクセシビリティ、安全、コンテンツの5つの分野に焦点を絞り、「1年半の間に、5つのパイロット都市でBIDモデルを発展させることを目指していきたい」とハッセル氏は意気込みを語りました。

5, ソウル(韓国):閑散とした地域でのエリアマネジメント
韓国・ソウルでは、「いかに賑わいを創出し、それを維持していくか」をテーマに掲げた民間団体によるタウンマネジメントが3年前から導入されています。景福宮などの歴史ある古宮や寺院、近代的な超高層ビルや東大門デザインプラザなど、伝統とモダンが混在するこの巨大なメトロポリスでは、すでに賑わいのあるエリアも多くあります。その一方、まちの中心部にありながら、人通りが少なく寂れた大通りや地区も少なくありません。

「寂れたエリアの公共空間を使うことで、まちに賑わいを創出したいというビジョンのもと、地元住民へのヒアリングを行い、地域の公的な組織と半年で36回の会議を実施し、覚書き協定を結ぶに至った」とリー・ウン・ヨン氏は話します。

タウンマネジメントに取り組んだ1年目、正式な組織はまだありませんでしたが、ソウル市からの資金援助のもと、“ムキョウ通り”と呼ばれる大通りで社会実験を行いました。ランチタイムに車両の交通規制を実施し、テーブルやチェアを設置した“ムキョウテラス”の出現によって、閑散とした地域に多くの賑わいが生まれました。
2年目は、組織の構造化、サイトのブランディングを進める中、参加企業も増え、ムキョウ地区の歩道を使って、フリーマーケットを開催したほか、寄付によってつくられたドネーション・パークが誕生しました。またこの年から、地域の人々と活動内容を共有するために、タウンマネジメント雑誌の発行も始めています。

2018年中頃から現在に至っては、新たに参加した7社の企業とともに、組織の形態やムキョウ地区のブランディングについて議論を重ねています。「ソウルでは、民間団体が公的な空間を使って活動することは難しい状況だが、その中でもしっかりとした資金源を確保し、持続可能な組織にしていかなければいけないと考えている」とヨン氏は述べ、プレゼンテーションを結びました。

BIDの法制化に向けた、実験的取り組み

続いては、ドイツ、シンガポール、アメリカの3カ国の代表が登壇し、BIDの法制度やBIDの法制化の実施に向けたパイロットプロジェクトについてプレゼンテーションを行いました。

左:ハンブルグ市役所 フリソフ・バトナー氏
中:シンガポール都市再開発庁(URA) ジェイソン・チェン氏
右:ニューヨーク市政府SBS(NYC Department of Small Business Services) M.ブレイズ・バッカー氏

1, ハンブルグ(ドイツ):BIDと市の政策の調和を図る
2005年、ドイツ政府によって国内で初めてBID制度が適用されたハンブルグ市。ハンブルグ市役所のフリソフ・バトナー氏によると、ドイツには48のBID組織があり、そのうち27はハンブルグにあるといいます。法制度は州によって異なり、今日までに9つの他州がハンブルグの事例にならって、独自の法制度を定めてきました。商業地区が明確に区分されたハンブルグでは、不動産所有者や小売業者が中心となりBID組織を立ち上げ、自主的に地区の改善活動に取り組んでおり、エリアマネジメント活動の資金は、州が対象地区の不動産所有者から負担金を徴収し、BID組織に交付する仕組みになっています。

「我々はBIDのミーティングには必ず出席し、さまざまな課題の調整を図っている。例えば、あるBID組織がやろうと思って計画したことが、あとになって市の政策と合わないことが判明するといった食い違いが起きないように努めている。不動産所有者が負担金を払いたくないということが起きた場合の対応も行っている」

ハンブルグでは、市当局が地域の安全や清掃活動を担っており、BID組織は、追加的な清掃活動を行うほか、公共空間のリデザイン、植栽、ストリートファニチャーやイルミネーションの設置といった美化活動、マーケティング、プロモーションなどの活動を主に行っています。

「BIDが実施されたことによって、ハンブルグでは都市部の開発が進み、まちの魅力がより増した。市民はとても喜んでくれているし、訪れる人も増え、雇用も生まれ、小売業の売り上げも増加してテナントも満足している。重要なのは、不動産所有者のまちに対する関心が高まった今、自発的に参加してまちづくりのパートナーになってくれていること。官民の協力はBIDの成功にとって不可欠だといえる」。

2, シンガポール:民間セクター主導によるBIDシステム
次に、シンガポールの都市再開発庁(URA)のジェイソン・チェン氏が登壇し、BIDの法制化を目指して進められているパイロットプロジェクトについて紹介しました。シンガポールのBID組織は、民間セクターが立ち上げ、民間セクターによって管理・運営を行われています。政府は法的な支援を提供しますが、あくまでも自主的な活動が前提です。また、清掃や安全、セキュリティに関する活動は政府の管轄であり、BIDがそれに取って代わるということはありません。ステークホルダーも、地域の事業計画に対して、投資するかどうかは自分たちで決めます。51%のステークホルダーの賛同が得られた場合、パイロットプログラムを実施するという流れになっています。

シンガポールでパイロットプロジェクトがスタートしたのは、2017年。その5年前にスタートしたシンガポール川周辺エリアのプロジェクトです。これを皮切りに、カンポン・グラムやマリーナ・ベイ、ラッフルズ・プレイス、チャイナ・プレイスなど、全10地域でパイロットプロジェクトが実施されています。「我々は、パイロットプログラムの中で触媒的な役割を果たしながら、民間セクターとの協力体制を築いている。そうすることによって、法制化された際にも協力し合うことができると考えている」とチェン氏は話しました。

3, ニューヨーク(アメリカ):政府による、76のBIDネットワークのサポート
続いて、ニューヨーク市政府SBS(NYC Department of Small Business Services)のM.ブレイズ・バッカー氏が登壇し、ニューヨーク市でのBID支援活動について解説しました。現在、ニューヨーク市にはタイムズスクエア・アライアンスをはじめとした76のBID組織があり、SBSはそれらのBIDネットワークを支援しています。

SBSによる支援活動は多岐にわたりますが、主に次の3つに分けられます。まず1つめは、政府との橋渡し役です。市を代表してBIDの理事会に参加し、市当局とBIDの緊密な関係を保つ役割を担っています。2つめ、BIDのキャパシティ・ビルディングの支援です。ベストプラクティスやデータの共有、補助金の決裁や管理を行い、能力強化や技術面でのサポートなどを提供しています。3つめは、コンプライアンスの監査です。具体的には、各BIDのコンプライアンスの管理・監査をはじめ、年次報告書など必要な書類の収集・分析、資産評価の課金プロセスの促進などです。

「ニューヨーク市のBID組織には70~80年代に設立されたものが多いが、今なお新しい組織が設立されようとしている。今後はフィージビリティの研究や各BIDがしっかりとしたガバナンスを効かせた運営ができるような支援も行っていきたい。イノベーションを促進するためのツールやリソースも紹介していく。最後に、これは私の願望になるが、評価などの情報が各自にきちんと伝わるように、地域にフィードバックループをつくっていきたいと考えている」

テクノロジーを活用した地域活性化

最後に登壇したのは、イギリスのLoyal Free社代表のソフィー・ヘインズワース氏。11のBID組織との協働のもと、イギリスの各地域と消費者をつなぐアプリ「Loyal Free App」を展開する民間パートナーの立場から、テクノロジーを活用した地域活性化の事例について紹介しました。

Loyal Free Appは、地域の活性化を支援するとともに、ショッピング、イベントや観光など、「その地域ならではのユニークな体験」を探し求めるユーザーにとって価値ある情報を共有・活用できるプラットフォームです。「消費者は、自分の好みに合ったユニークな経験を求めて、その場所(地域)に行く前に、ありとあらゆる情報をリサーチする。求めている情報がすぐに出てこないと、簡単にやる気をなくしてしまう。イギリスのどこにいてもワンストップで使えるシンプルなツールを求めている」とヘインズワース氏は話します。

それらのニーズに応えるLoyal Free Appでは、ユーザーは信頼できる情報源から集めた情報をアプリ上で他のユーザーと情報共有することができるだけでなく、自分が行きたい場所の情報にフィルターをかけて検索することもできます。ランキング機能のほか、特定の場所をバーチャル体験できるツールやマップビューなども搭載されています。

「テクノロジーを使ったプレイスソリューションは、ダイナミックかつ打てば響く、素早い反応が求められる。消費者がその場所に行く前に求めているのは、無料で入手できるより具体的な情報。各地域には、それらをよりインタラクティブに提供することが求められている」と話し、セッションを締めくくりました。

閉会式では、小林重敬氏から登壇者10名に六角籠目紋の江戸切子ペア冷酒杯が贈呈され、盛況のうちに幕を閉じました。DMO東京丸の内でのオープニング・トークに始まり、世界各国のBIDマネージャーが余すことなく持ちうるナレッジを共有したフォーラムと、濃密な1日となった「World Town Leadership Summit 2019」の初日。エリアマネジメントが新たなフェーズに入ったことを感じさせる充実の時間となりました。