2012年10月3日(水)、ミッドランドスクエアのミッドランドホールにて、名古屋・大阪・東京 三都市フォーラムの皮切りとなる「環境まちづくりフォーラム2012 in 名古屋」が開催された。約200人収容の会場は満席となり、三都市開催第一弾として大変成功裏に終わったフォーラムとなった。
実行委員長である小林重敬氏(東京都市大学 都市生活学部教授)の開会挨拶に続いて行われた、佐野衆一氏(森ビル株式会社 管理運営部長 兼 震災対策室事務局長)による基調講演では「森ビルの震災対策」というテーマで、安定的な電源供給システム等ハード面の震災対策と平時の訓練状況、BCPへの取組みなどについて紹介があった。

続くトークセッションでは、浜松と栄ミナミからそれぞれの地域の取組みに関する事例紹介があり、その後、森ビルと名古屋駅地区も加わり、現状の課題の共有と今後のビジョンについて議論がなされた。


 
 

佐野 衆一 (森ビル株式会社 管理運営部長 兼 震災対策室事務局長)
 
逃げ出す街から逃げ込める街へ。

森ビルでは開業以降、数多くの大規模再開発を通じて安全・安心を目指した様々な取り組みを行っている。特に六本木ヒルズにおいては、「逃げ出す街から逃げ込める街へ」をキャッチコピーに帰宅困難者対策をはじめBCP対策などをタウンマネジメントとして展開している。都内区部で震度5強以上の災害時には震災対策本部が設置され、近隣居住社員を初動要員として情報収集や人命救助、在館者への情報連絡などを行う体制を整えている。非常食3日分の備蓄、ミニテレビ局の活用など多重的な情報伝達や年間50回の訓練を行うなど、平時から災害時に高い実行性を発揮するための取り組みを行っている。六本木ヒルズでは、信頼性の高い中圧ガスを使った自家発電、灯油を使った非常用自家発電、東京電力からの非常時電力供給と三重に電源を確保し信頼性を高めている。また震災時の上水停止に備え、管理物件の13箇所に井戸を設置している。東日本大震災以降、テナント企業による『耐震性能』に対する高いニーズに対応するため、ライフラインの確保など様々なBCP対策を行っている。新たなソリューションとして、アークヒルズと空港を往復するヘリを震災時に優先的に利用できるプランを設けている。森ビルでは港区と「災害時における帰宅困難者の受け入れなどに関する協力協定」を2012年3月1日に締結し、自治体とも連携した帰宅困難者対策も実施している。

 河合 正志(浜松まちなかにぎわい協議会 事務局長)
地域資源をアピールできるまちづくりを目指して。

2010年4月に任意団体として協議会を立ち上げ、その半年後、自主財源確保事業のために法人格を持った「浜松まちなかマネジメント株式会社」を設立した。同社では、エリアマネジメント広告事業、ソラモ(イベントスペース)の指定管理事業、イベント紹介媒体の出版、自動販売機管理、イベント機器の貸出し、コンサル・支援事業等を実施している。協議会のまちづくりの考え方は、(1)地域の資産、魅力、可能性を活かすこと、(2)人口減少等の社会的課題に対応すること、(3)地権者、居住者、就業者がまちづくりに積極的に関わっていくこと、の3つとなる。財源確保策として、浜松でも2011年7月よりエリアマネジメント広告事業を実施しているが、まだ全国でもあまり実績がないため、『公共空間を利用して広告を行うことの明確な理由付』といったようなルール作りに苦労した。今後の課題としては媒体の拡大、営業力の拡大といったことが挙げられる。

 清水 洋一(栄ミナミ地域活性化協議会 事務局長)
街が変われば人も変わる。チャレンジから生まれる街の賑わい。

栄ミナミは、『栄中部を住みよくする会』『栄ミナミ商店街連盟』『栄ミナミ地域活性化協議会』の3つの組織で街づくり活動を推進。「歩いて楽しい街づくり」を目指し、(1)安全・安心な街づくり、(2)埋もれた歴史を掘り起こし、文化施設を活用する、(3)ナディアパークや矢場公園を活かす、といった3つのテーマで街づくりに取り組んでいる。南大津通りの歩行者天国の実施は1984年が最後だったが、2011年秋にテスト実施として復活、今年の春から本格実施している。音楽イベントや移動販売車の実施効果もあり、日を追うごとに街に賑わいが戻ってきたと実感している。また、公共空間の活用、防犯・防災、エコの街、デザイン性の追求といった4つの方向性で、現在マスタープランを作成中。さらに、新しい取組みとして、災害対策という点からも、フリーモバイル自動販売機の設置による、Wi-Fi利用環境の整備を進めている。


 

 

戦後から続いたまちづくりは国家戦略といっても過言ではなかった。21世紀になって、民間・地権者・住民が一丸となってまちづくりに従事していく、それを行政・自治体が支援していく時代に変わってきている。また、「環境・エネルギー」や「防災・減災」等の新たな社会的な課題にも取組んでいく必要がある。トークセッションでは、浜松と栄ミナミの事例紹介を基に、現状の課題や今後のビジョンについて探っていく。

 


コーディネーター
伊藤 孝紀
(名古屋工業大学 准教授)
 
 
 パネリスト
 鈴村 晴美
(名古屋駅地区街づくり協議会 事務局長)

当協議会でも昨年来、国交省の委託を受け、道路を活用したエリアマネジメント広告社会実験に取り組んでいる。浜松の事例を参考にしながら、この取り組みが定着する方向に持って行きたい。昨年の社会実験では、市の内規が変更になり街路灯バナー広告の掲出が可能になるという大きな成果を得た。今年は、運用ルールや掲出までの迅速化に取り組んでいくとともに、新たに工事用仮囲いへの広告掲出もチャレンジしている。全国のまちづくり組織が、様々なテーマで社会実験を実施し、成果が恒常化していくような取り組みができればいいと考えている。今年のエリアマネジメント広告社会実験の終了後、来年からスムーズに本格運用できるように、関係機関の協力を得ながら推進していきたい。
また、都市間競争に勝てる街をどう作っていくかという事が大きな目標である。名古屋をみんなが来たい街、世界のビジネスが集まる街にしていくことが大きな課題である。直近では安全・安心が一番大きな課題だと思っている。直近のテーマと長期的なテーマを見据えた上で地域価値の向上に努めていきたい。

 パネリスト
 佐野 衆一
(前掲)

東日本大震災時は帰宅困難者が街にあふれた。会社では日頃の訓練の成果もあり、災害対策本部が15分ほどで立ち上がり、被災状況もすぐに把握することができたが、帰宅困難者に対する情報の伝達については人手に頼るしかなかった。この経験が情報通信・伝達の多重化を一段と加速して進めるきっかけとなった。また、一斉帰宅を抑制するために会社に留まっている事業者や、健康上問題の無い帰宅困難者に関しては、避難誘導や子供・お年寄りのお世話といった災害対策要員側に取り込み、懸念されている大量の帰宅困難者に対応できないかといった取組みも検討している。ソーシャルネットワークが震災時に有効だったと聞き、先月、Yahoo、Twitter Japan、J-WAVE、森ビルの4社で実行員会を立ち上げ、一般から100名の参加者を募集し、ソーシャル防災訓練を実施し、非常に可能性があると感じた。今後も取り組んでいく予定だが、スマートフォンのバッテリー充電、情報の送り手がどうやって正しい情報を収集するのか、また、受け手側が情報の真偽をどう見極めるのかといった課題が浮かび上がった。
日本の都心部は世界の都市間競争に勝っていくために、ブランド力を上げていく必要があるが、一番ベースにあるのは安全・安心ということだと思う。

 パネリスト
 清水 洋一
(前掲)

街のWi-Fi化ということで、自動販売機の上にWi-Fiの機械を取り付けている。現在ある自動販売機のオーナーと話をして徐々に入れ替えを進めているが、スマートフォンを使っていない世代にはWi-Fiという言葉自体や趣旨がなかなか理解されにくい。まずは町内会等の集まりで、街としての取組みを一人一人に理解してもらうところから始まる。エリアマネジメント広告に関しても、市の規制緩和によりイベントの際のスポンサー広告等の掲出は可能になったが、なかなか純粋商業広告の掲出は難しい。今後、事例を作っていくことで行政との協議の可能性も広げていきたい。
まちづくりというものは世代をきちんと引き継いでいくことが大切だと思う。今、まちづくりの中心となっているのは50代~60代の方達だが、Wi-Fi化にしても歩行者天国の復活にしても、町内会や商店街も世代交代をして積極的に若い世代も取組みに参加し、長く勢いのあるまちづくりを目指していきたい。

 パネリスト
 河合 正志
(前掲)

まちづくりを持続可能な活動にするためには、財源の確保が重要である。そのためにエリアマネジメント広告を実施している。エリアマネジメント広告を実施するための要綱や取り扱いのルールを整備するのに、行政も苦労し時間がかかった。また、事業スキームを構築するのには、民間と行政との共同作業が必要である。一方で、広告の料金設定や営業活動がなかなか難しく、制度があれば良いということでもない。まちづくりというのは、誰が主体となって実施するかが重要であると感じている。その主体者を作るためにも、まちづくりというのが一つの事業として、社会的に見て一つの産業になるようにしていければいいと考えている。

 総括 伊藤 孝紀氏 (前掲)

4つの地区それぞれの特徴、主体となる組織は異なるので、在り様はそれぞれあると思う。そうはいっても安心で安全に住める街ということがベースにあり、都市間競争に勝ち抜くブランド力があって、賑わいがあって、そして自分たちが主人公となってまちづくりに取り組んでいける街は素敵だと思う。そんな誇れる街にするためにも、やはり、机上の空論に終わったり、マスタープランを作るだけではなく、実際に街に出て行政も民間も一緒になってまちづくりをしていくことが、エリアマネジメントを推進していくのに一番近道なのではないかと思う。