NewsPicksに、Marunouchi Street Park 2026 Summerについて記事掲載いただきましたので、そちらの内容をリガーレHPでも掲載いたします。
暑い、とにかく暑い。気温35℃超えはもはや当たり前になった。
酷暑は、ビジネスパーソンを屋外から遠ざけている。オフィスで働いていても、屋外でのランチを諦めさせ、打ち合わせの移動は最短距離で済ませる。
「このまま酷暑が当たり前になれば、夏の屋外空間の活用は難しくなってくる」。
そう話すのは、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアの活性化を行う、大丸有エリアマネジメント協会(リガーレ)の田辺紀人だ。
丸の内のメインストリート「丸の内仲通り」を起点に、まちを変えるきっかけとなる社会実験「Marunouchi Street Park」を手掛ける中、2026年の夏は、「酷暑対策」をテーマに打ち出した。
では「酷暑」が経済に及ぼす影響とは何か、社会実験はまちをどう変えるのか伺った。

──酷暑が常態化することの経済的影響をどう見ていますか。
田辺 国際労働機関(ILO)の発表では、2030年までに世界全体で年間2.4兆ドルの経済損失を及ぼすという試算があります。
総労働時間が2.2%減り、フルタイム雇用に換算して約8,000万人分が酷暑によって失われると言われています。

暑さは、もはや個人の不快感の問題ではなく、都市の経済そのものを蝕む構造的なリスクへと変わっています。
実際、日本経済の中心地といえる大丸有エリアでも、ここ2〜3年、夏の人流は明らかに変わりました。
丸の内仲通りでは平日昼間や土日祝の日中に、車道を歩行者に開放する「丸の内仲通りアーバンテラス」を実施しています。テーブルや椅子を並べ、交通規制を敷くことで、人が集える場を作っています。しかし、酷暑の日はランチタイムにアーバンテラスを使う人が減ってしまっている。
ビルからビルへ最短距離で移動し、通りや屋外空間を含む大丸有エリアのまち全体を楽しむ余裕がなくなってきた。あるいは、楽しもうと思う気持ちそのものが失われていると感じます。

──大丸有エリアの回遊が減るとなると、経済的な影響も出ていそうですね。
そうだと思います。また、中長期的な経済へのデメリットも考えられます。
都市で働くことの特徴の一つは、異なる企業や業種の人、来街者の方も含めた、偶発的な交流にあります。
ビルから外に出れば何気ないビジネスの会話が聞こえてくる。目に入る情報がある。そういった接点が、新しい気づきや創造性につながってきた。
ウェルビーイングや多様性。近年のビジネスシーンでイノベーションを生むための起爆剤とされてきたものも、人と人が偶発的に出会い、混ざり合う場があってこそ成り立つものです。
屋外空間という「混ざり場」が酷暑で機能不全に陥れば、創造性や生産性、ひいてはイノベーションが生まれる土壌そのものが痩せ細る。そんな危機感があります。
だからこそ、ビジネス街の屋外空間の酷暑対策を真剣に検討すべきだと考えました。
──酷暑が経済にも大きく影響するなか、大丸有エリアのエリアマネジメントを担うリガーレは、今、どのようなことに取り組まれていますか。
「Playful Chill Street」をテーマに、「Marunouchi Street Park 2026 Summer」という取り組みを進めています。酷暑対策を、丸の内仲通りにちりばめながら社会実験を実施し、人の行動変容や交流がどう生まれるのかを検証していきます。

Marunouchi Street Park(MSP)は、2019年から続けている丸の内仲通りをはじめとする公共空間を活用した社会実験で、今回で17回目になります。
大丸有エリアの賑わいを生み出すことを目的に、エリアで働く人や訪れる人が「滞在したくなる」「歩き回りたくなる」空間へと、公共空間を変えていく試みです。
丸の内仲通りは、普段はアーバンテラスの時間帯を除いて車が走る道です。MSPの期間中は、24時間の交通規制を敷き、道路を丸ごと歩行者空間に変えています。
ここで、春・夏・冬と季節ごとにテーマを設け、人の流れや交流の変化を測ってきました。
「酷暑」がここまでまちの在り方を左右する課題になってきた今、これは正面から取り組むべき重要なテーマだと思い、本格的な社会実験に踏み切りました。

──どんな酷暑対策を実施するのでしょうか。
まず、暑くても「快適」と感じる要素を5つに分解しました。
それが「日陰」「風」「ミスト」「音」「香り」。この5つの要素をどう変容させれば人が「快適」と感じるのかを検証していきます。
物理的な暑さを打ち消すアプローチは3つ。直射日光をさえぎる「日陰」、仰いで涼しい「風」、触れて涼しい「ミスト」。
ただ、人が暑さを感じるのは物理的なアプローチのみとは限りませんので、心理的なアプローチを2つ加えました。涼しく感じる「音」と「香り」です。
──心理的なアプローチに至ったのは面白いですね。なぜその5要素に絞り込んだのでしょうか。
物理的なアプローチには過去にも取り組んできたためです。
たとえば、2019年に最初に取り組んだのは「丸の内仲通りに芝を敷く」という試み。緑があると人が憩うだけでなく、直射日光の照り返しも和らぐ。
続けるなかで、その効果が実感として見えてきました。またミストの噴霧も、大学などと組んで効果検証を行ってきました。
ただ、これまでは要素ごとの単発検証にとどまっていましたが、今年は酷暑というテーマのもとで総合的に比較検証しようと考えていますね。
──今回の社会実験によって丸の内仲通り、また丸の内というまちがどう変わるのでしょうか。
人の行動や、隣接する店舗への影響をデータ化し、空間の作り方を掛け合わせながら将来の屋外空間づくりを検討しています。今回の酷暑対策のデータはもちろん、これまでに行ってきたMSPも同様です。
この検討は、私たちだけで完結するものではありません。行政やまちづくり団体とも、「丸の内仲通りを将来どういった空間にしていくか」について、対話を重ねているところです。
先ほどからお伝えしているように、MSPは、その議論を実装へと近づけていくための社会実験です。
今回の「MSP 2026 Summer」で言えば、日陰・風・ミストの3つは、サーモカメラで物理的な温度差を計測します。音と香りは温度には表れにくいため、5つの要素すべてについて、来場者にアンケートで「体感した涼しさ」を順位付けしてもらいます。
温度が何度下がったか、人がどう感じたか。その結果、来場者数や、各エリアの人流がどう変わったかを判断材料にします。
極論ですが、たとえば丸の内仲通りを一番涼しくしたのが「音」だったとしたら、夏には涼しげな音が流れる、丸の内仲通りが誕生するかもしれません。

──面白いですね。具体的に、今回の5つの要素をどんな酷暑対策に落とし込んでいるのでしょうか。
「日陰」では高い遮熱性・遮光性・UVカット性を兼ねそろえた「サマーシールド(R)」を屋根にした日陰エリアを作っています。
これは、「東レ」に協力いただき日傘などに用いられている素材を使用していますね。
丸の内仲通りに日傘を設置すれば、屋外空間でも暑さをしのげる環境ができます。日傘の効果を、性別や年齢を問わず多くの人に体感してもらう機会になります。
また「風」のエリアでは企業や大学、自治体間の共創による新規価値創出を推進・支援する「point0」のアイデアから生まれた屋外用「空調機能付きベンチ」が登場します。
背もたれや肘掛けから冷風が吹き出す仕組みで、これまで難しかった「屋外で座って涼む」という体験を、技術で可能にする挑戦です。

──かなりさまざまな企業と共創されるんですね。
都市の課題は、1社の技術やアプローチだけでは解決できません。さまざまな知見や見方を総合的に集め、組み合わせることで、初めて解が見えてきます。
これが私たちの基本的な考え方です。
そしてこの考え方は、「リガーレ」という団体名にも込められています。リガーレはラテン語で「つなぐ」という意味です。
丸の内仲通りの課題を一緒に解いてくれるパートナーを、エリアの内外から「つなぐ」ことは、私たちのミッションの一つでもあります。
行政だけでまちづくりはできませんし、デベロッパーやまちづくり団体だけでもできない。そこに「酷暑」という社会課題が新たな問題として浮かびあがった。
であれば、それぞれの企業の力を持ち寄って共創していくことが解決への近道だと考えます。
そのため「音」と「香り」の総合演出を行うエリアも設けます。「JVCケンウッド」のバイオフィリックサウンドデザイン「KooNe(クーネ)」を活用します。
「音」が人の行動や気持ちに影響を与えることは論文等で実証されており、人にやさしく寄り添う、リアルな自然音で涼しさを演出します。
そこに香り演出技術を手がける「プロモツール」にも協力いただき、これまで主に高級ホテルや商業施設で培われてきた知見を、屋外の公的空間で初めて実証します。風向きや気温の影響を受けながら、香りはどう影響を与えるかを検証しています。

──ほかに、今年新しく試みていることはありますか。
夜の時間帯も「Neon Night」と冠し、力を入れています。これまでも夜も楽しめる取り組みをしていましたが、ここまで多くの施策を夜に実施するのは初めてです。
暑さが和らぐ時間帯に仕事を終えた方々が、そのまま帰路につくのではなく、丸の内仲通りで少し立ち止まったり、互いに交わって帰ったり。そんな場を作ろうとしています。
夜の丸の内仲通りに滞留を生み出すために、チルな音楽とノンアルコールのモクテルで心地よい雰囲気を整えました。
「JVCケンウッド」にスピーカーを提供いただき、最高級の音質を楽しめる環境を作りました。
そして「BEAMS RECORDS」に選曲を依頼し、空間に合わせた多様な音を通じて、「癒し」や「高揚感」を感じてもらうことを目指しています。

そうした心地よい環境の中で、就業者や来街者同士が自然と交流できる場を作る。そのための仕掛けとして生まれたのが、色違いのランタン(光の交流)です。
──ランタンをどう使うんですか。
たとえば「今日のテーマはスポーツ」と設定して、サッカー好きの人は黄色、野球好きの人は赤のランタンを手にして座る。
共通の話題があれば、初対面でも会話のきっかけが生まれやすい。私たちにとっても、訪れる人たちの関心がどのテーマにあるかが、ランタンの色の分布として可視化できる。空間から定性的に把握できるんです。
酷暑対策の5つの要素や、色違いのランタンといったアイデアは、リガーレのチームで話し合って生まれたもの。
共創企業の候補を探したり、協力を打診したりといったこともチームで実践しています。今回の社会実験を参考にし、来年、再来年と新たな取り組みを積み重ね、「丸の内仲通り」の活用法を拡張していくつもりです。

──「丸の内仲通り」という経済的影響が大きい場所に酷暑対策がなされ、行政とともに動きまちが変われば、経済が活性化しそうだと素直に思いました。
本当にそうですね。「丸の内仲通り」は冬に1.2キロにわたって続くイルミネーションがあり、この空間自体が人を呼ぶ装置になっています。
夏も施策を積み重ねることで、同様に人が集まる仕組みを作りあげたいと考えています。
たとえば、今年から始まった「MARUNOUCHI SUMMER FEST」もそのひとつです。これは丸の内エリア全体、つまり「まちまるごと」で行われるイベントで、MSPはもちろん、これまで夏に実施してきたさまざまな施策や新しい体験コンテンツを、まち単位で展開・発信します。そうすることで、持続的なまちの価値向上を目指しています。
「まちまるごと」を楽しんでいただき、丸の内の新たな「夏の風物詩」にしていきたい。
ただ、実際、人流を生みたくても、思いがけない酷暑が原因で人がこない。この悩みは丸の内のみではなく全国共通の課題だと思っています。
酷暑は、温暖化の影響で今後も続くと予想されています。これは日本中の都市、観光地が直面する課題です。だからこそ、私たちがMSPで積み上げたデータをまちに還元していきたい。
「目的がなくても、ただ居たい」と思える公共空間が、昼も夜も季節問わず成立する。イベントが楽しいから来ることはもちろん、心地よいから来て滞在する。そんな公共空間やまちが、丸の内仲通りから大丸有エリア全体へ、引いては日本中へ広がっていく。そのロールモデルになれたらいい。私は、そう願っています。

Marunouchi Street Park 2026 実行委員会 | NewsPicks Brand Design