6月5日、大手町サンケイプラザホールにて、全国エリアマネジメントネッワーク主催の「エリアマネジメントシンポジウム2018 in 東京 ~イギリスのBIDとこれからの日本のエリアマネジメント~」が開催されました。
近年、エリアマネジメント活動が広がっている日本ですが、「財源をどう確保するのか」が重要な課題となっています。欧米諸国の場合、BID(※)という制度を活用して資金を集めていますが、日本においても、BIDを参考にした「地域再生エリアマネジメント負担金制度」が新たに創設され、今後の動向が注目されています。
そこで今回のシンポジウムでは、「地域再生エリアマネジメント負担金制度がどのように日本のエリアマネジメントを変えていくのか」を大きなテーマに設定。先進的にBIDを活用してまちづくりを進めているイギリスでの取り組み、日本におけるエリアマネジメントの事例などを学び、日本のエリアマネジメント活動の今後の展望について、議論を行いました。
※BID…Business Improvement Districtの頭文字を取ったもので、エリアマネジメント活動の資金を自治体が徴収し(地権者に課される負担金が主財源)、民間の団体に再配分、公共空間の管理なども一体的に任せてまちづくりを推進する制度。
イギリスから学ぶBIDの本質、資金確保のための新制度
CE of Camden Town Unlimited,Simon Pitkeathley(サイモン・ピッキ-スリ)氏
基調講演を行ったのは、イギリスのBID「カムデン・タウン・アンリミテッド」の最高経営責任者を務めるサイモン・ピッキ-スリ氏。サイモン氏は、ロンドン中心部からやや北に位置するカムデン・タウンでの事例を中心に、イギリスのBIDの現状について紹介をしていきました。
産業地域や市街地など、309のBIDが存在するイギリス。それぞれのBIDが協力者を募るうえで重視しているのは、先に地域のリソースを投入することだとサイモン氏は話します。例えば薬物犯罪が問題になっていた地域の治安を向上するためには、まず地元の人々が民間のセキュリティ部隊を立ち上げ、それによって自治体や警察の関心を喚起し、BIDへの資源投入を獲得しました。また、街に賑わいをもたらすためにはアーバンデザイナーに依頼して都市計画のデザインを手がけることで、企業等からの投資を得やすくしているといいます。こうした取り組み方をサイモン氏は「テコの作用」と表現したうえで、「最初の段階で自分たちの資金や資源を投入し、それを呼び水にBIDの価値を示すことで、より大きな資金の獲得につながる」と説明しました。
こうした動きをしていく中で経営者にとって重要な仕事は「ロビー活動」です。例えばカムデン・タウンに高速鉄道誘致の話が持ち上がった際には、カムデン・タウン・アンリミテッドがロンドン交通局や地元関係者などに対してロビー活動を行い、それぞれのニーズや思惑が叶えられる中間地点に落とし込むことに成功しました。このときのロビー活動はカムデン・タウンにとって望ましい形での鉄道誘致を実現しただけではなく、ロンドン交通局から新たなBID設立の話を得ることにもつながっています。
最後にサイモン氏は、BID団体を運営していく上で忘れてはならないことを挙げ、講演を締めくくりました。
「我々は自治体とも民間とも少し違う考えを持ち、ロンドンに暮らす人全員を取りこぼすことなく、全員でもっと成長するためにさまざまな活動をしている。BIDに取り組んでいく上で必要なのは、目先のことにとらわれず、長期的な視点を持ち、戦略的な道具としてBIDを活用していくこと。そしてBIDを使った先には全員の包摂的な成長があるという考えを持つことです」
内閣府地方創生事務局 審議官 青柳一郎氏
続いて、内閣府地方創生事務局 審議官 青柳一郎氏が登壇し、6月1日に施行された改正地域再生法により創設された「地域再生エリアマネジメント負担金制度」について、その特徴や創設の背景などを解説しました。
地域再生エリアマネジメント負担金制度は、市町村が、エリアマネジメント活動に要する費用を受益者から聴取し、エリアマネジメント団体に交付するというものです。フリーライダー(エリアマネジメント活動に対する会費を負担しないにも関わらず、活動により利益を得ている人)の問題を解決するために、「受益者の3分の2以上の賛成を得られれば負担金を強制的に徴収できるようにする」という形で徴収をするのが特徴です。この制度の対象となる活動や事業者は、その地域の実情に応じて変わりますが、例えば「施設や設備の設置・管理に関する活動」「イベント開催や情報発信」「巡回警備や清掃活動」などが挙げられました。
このように制度化をすることは、エリアマネジメント活動の進化のためにも必要であると青柳氏は説明しました。
「従来のエリアマネジメント活動は“ノリ”の感覚でやっていた部分もあった。しかしこれから全国的にエリアマネジメント活動を広め、さらに進化していくためには、きちんとした根拠とプランニングを持って進めていく必要があると考え、こうした制度を作った。一方で、必ずしもこの負担金制度を使う必要はなく、制度に馴染むものについては活用していただき、さらに活発なエリアマネジメントが全国で展開されていくことを期待したい」
エリアマネジメント活動に不可欠なものとは
シンポジウムの後半は、講演を行ったサイモン氏、青柳氏に加え、各地でエリアマネジメント活動に取り組む奥原悟氏、白鳥健志氏を加え、「これからのエリアマネジメント〜活動と財源〜」というテーマのもと、パネルディスカッションを行いました。
まずは奥原氏と白鳥氏がそれぞれの取り組みを紹介しました。なお、モデレーターは全国エリアマネジメントネットワーク副会長 保井美樹氏が務めました。
(写真左から)北谷町デポアイランド通り会 会長 奥原悟氏、札幌駅前通まちづくり株式会社 代表取締役社長 白鳥健志氏、全国エリアマネジメントネットワーク副会長 保井美樹氏
(1)「地域一体型・まちづくりと未来構想」…奥原悟氏(北谷町デポアイランド通り会 会長)
「24年前までは何もない埋め立て地」であった沖縄県北谷町。この地域に賑わいを創出するために、北谷町デポアイランド通り会は「人々の感性を刺激し、交流させる」というテーマを設定してまちづくりを推進してきました。
具体的にはアートの活用や、自然との調和を意識した景観づくり、まちづくりを担う人材育成などに取り組んでいるといいます。そして、「デポアイランド通り会は、組織規模は小さいが、その分意思決定から実行までのスピードが早い。その特徴を活かし、地域住民が誇りを持てるまちづくりをしていきたい」と、未来への抱負を語りました。
(2)「札幌駅前通地区におけるエリアマネジメント」…白鳥健志氏(札幌駅前通まちづくり株式会社 代表取締役社長)
「公共空間の運営・管理」「“まちづくり”の具体的な調整」を目標に、札幌駅前通りのエリアマネジメント活動に取り組む白鳥氏。2020年の設立以降、数々の活動に取り組んで同地域に賑わいを創出してきた同社では、現在、「さまざまな活動が生まれるインキュベーションエリア」を創る取り組みにチャレンジしています。実際、まちづくりカフェや空きスペースを活用したチャレンジショップの開設、人材育成のためのスクールの創設などを行っていることを紹介しました。
奥原氏と白鳥氏のトークに続いて、各登壇者によるパネルディスカッションを実施。ディスカッションでは、エリアマネジメント活動を進める上での合意形成の方法や、BIDの強み、地域再生エリアマネジメント負担金制度をどう活用していくべきかといったことなどが議論されました。セッションの最後に発せられた「エリアマネジメント活動を推進していく上で大切なことは“くじけず、話し合うこと”だと改めて感じた」(白鳥氏)、「公約したことを実行して信任を得る。それを大切にして、まちづくりを進めていきたい」(奥原氏)といったコメントには、一同深く頷き合っていました。
パネルディスカッションの後には、国土交通省 都市局 まちづくり推進課 課長の佐藤守孝氏より「民間まちづくり活動の推進に向けた国土交通省の最近の取り組みに関する報告」があり、都市のスポンジ化への対策、民間まちづくり活動のさらなる推進のための取り組みが報告されました。
すべてのセッションを終えて、閉会の挨拶に立った京都大学経営管理大学院 院長 原良憲氏は、「各登壇者の講演からは、エリアの価値という、無形資産をどのように創出、保全、持続、活用していくかを聞くことができ、大変感銘を受けた。今後もグローバルな視点を持ちつつ、官民連携してまちづくりの実践に貢献していきたい」と語り、シンポジウムを締めくくりました。
(写真左から)国土交通省 都市局 まちづくり推進課 課長の佐藤守孝氏、京都大学経営管理大学院 院長 原良憲氏