2024年5月31日、リガーレの2024年度の事業報告と収支報告、2024年度の活動方針と予算計画を発表する通常総会を開催しました。2022年度に設立20周年を迎え「新しいフェーズ」へと入ったリガーレ。「次の20年」のまちづくりの基盤を構築するための重要な一年として位置づけた2024年度は、組織の指針となるビジョンづくり、様々な取り組みを客観的に評価するKPI設定という2つを大きな柱として掲げて邁進してきました。
冒頭、小林重敬会長の挨拶では、次のように日本のエリアマネジメント発展への期待が語られました。
「今後我が国が目指すエリアマネジメントの方向性として、丸の内仲通りと大阪の御堂筋という東西の主要な道路を積極的に活用していき、将来的には両方とも緑豊かな公園のようにするという思いを持っています。そうした姿を世界に発信していくことは大きな意味を持つものになるでしょう。緑があるところにはクリエイティビティが生まれるので、東西の中軸都市がそうなっていくことを期待しています」
2023年活動報告
総会の前半では、第1号議案として2023年度の事業報告と収支報告が、第2号議案として2024年度の活動方針と予算案について報告がありました。以下にそれぞれの報告内容を紹介します。
◆丸の内ストリートパーク
2023年で5年目を迎え、丸の内の風物詩として定着してきた「丸の内ストリートパーク(MSP)」。2023年度は、夏は7月27日〜9月21日までの57日間という長期に渡って開催しました。大丸有エリアの就業者や来街者が滞留し、回遊しやすい空間を目指し、様々な仕掛けを施しました。中でも人気を博したのは、同年に開催されたラグビー日本代表を意識したエリアで、人工芝と天然芝を敷いてピクニックシートなどで休憩できるようにしたり、日本代表チームのユニフォームデザインが施されたブランコを設置したりして、多くの方にくつろいでいただきました。
11月29日〜12月25日までの28日間に渡って開催された冬季のMSPは、エリアのテナント企業などにご協力をいただき、各ブロックにストリートマーケットの出店を実施。丸の内のグルメやショッピングを楽しみながら通りを散策できる仕掛けをしていきました。また夏季に使用したブランコをリメイクしてフォトスポットを設置し、来街者の思い出づくりに一役買いました。「何年も続けることで什器も多く貯まってきているので、無駄なく魅力ある空間を作るために活用していきたい」と担当者は振り返りました。
◆丸の内ラジオ体操
オフィスワーカーの健康促進やコミュニケーション活性化を目的に2015年からスタートした丸の内ラジオ体操。2023年度は春(第14回)と秋(第15回)に開催しました。春のラジオ体操は、DMO東京丸の内が支援する「第31回日本医学会総会 2023東京」と連動して実施されたことが、2023年度のトピックスでした。
本イベントは年々注目度が高まっていて、2023年度は1回あたりの平均参加者数が150名ほどとなり、前年度比で30人ほど増加しました。それだけの人数がオフィス街で同時にラジオ体操をする光景は迫力があり、今後ますます丸の内の名物となっていきそうです。
◆大手町・丸の内・有楽町夏祭り2023「丸の内 de 打ち水」
大丸有エリアの夏の恒例行事である「大手町・丸の内・有楽町 夏祭り」。2023年度は「江戸の夏」をテーマにした企画を多数展開しました。なかでも行幸通りには1020個もの風鈴を展示し、多くの方に東京駅前で奏でられる音色を楽しんでいただきました。
また、こちらも夏の恒例行事となった「丸の内 de 打ち水」には、小池百合子東京都知事、山田美樹環境副大臣(当時)、樋口高顕千代田区長などにも参加いただき、涼を感じるための日本古来の方法をアピールしていきました。
大手町・丸の内・有楽町夏祭りは、2024年度も7月26日・27日に開催予定です。今年度は櫓の設置も予定しており、「引き続き夏の風物詩として行幸通り駅前を彩りたい」と担当者は意気込みを語りました。
◆第77回丸の内軟式野球大会
戦後間もない時期から始まった歴史ある丸の内軟式野球大会。2023年度は45チームがエントリーし、7月23日から9月3日までの約1ヶ月半にわたり熱戦が展開されました。みずほ証券野球部と山九首都圏エリアが顔を合わせた決勝戦では、両者打ち合いの末に9対6でみずほ証券が優勝を果たしました。
決勝戦などの会場となった神宮外苑軟式野球場は、神宮外苑の再開発の影響により、2023年限りで廃止される方向となっていましたが、2024年度も使用できることが決定。今年度も同球場で、大丸有エリアの野球人たちが汗を流す予定となっています。
◆エコキッズ探検隊2023
次世代を担う子どもたちに、夏休みにイキイキと遊びながら学びを提供する「エコキッズ探検隊」。様々な体験を通じて次世代の環境リーダーを育成することを目的としたこの取り組みも18回目を迎えました。2023年度は、大丸有エリアのテナントや企業の協力を得て、ジャズやマインクラフト、まちめぐり、科学実験、食や工作など14種類のプログラムを実施し、約370名の小学生に楽しんでいただきました。
なかでも、日の丸自動車興業株式会社協力のもと、参加者たちが描いた絵で丸の内エリアを走る無料シャトルバスをラッピングするという企画は人気を博し、多くの子どもたちが楽しみながら絵を描いていました。
◆大丸有キラピカ作戦
「大丸有キラピカ作戦」は、リガーレが主催する大丸有エリアの従業者を対象とした清掃活動です。2023年度はエリアに所属する企業や団体から485名もの方にご参加いただきました。
この活動は、「東京ステーションシティ キラピカ作戦(主催:一般社団法人東京ステーションシティ運営協議会)」と「八重洲・日本橋・京橋キラピカ作戦(主催:八重洲・日本橋・京橋キラピカ作戦事務局)」と同時開催され、「東京エキマチ キラピカ作戦」と総称されています。3エリア合同としては126の企業・団体から1231名が参加。これは過去最高の数字で、活動の認知度の高まりや、従業者のエリアに対する愛着を感じさせました。
◆エリアマネジメント広告
エリアマネジメント広告は、リガーレにとって柱の事業のひとつです。これまでは道路活用に連動した掲出、ブランドプロモーション、MICE案件に関連した出稿が中心でしたが、2023年度は大丸有エリアの企業やテナントにも多くの出稿をいただきました。
フラッグ広告の他、丸の内を走る車体バスのラッピング広告、街区案内サインポスター広告などの利用も広がり、特定の広告で占めるジャック広告も行われるなど、出稿のあり方にも広がりが見られています。
◆アップサイクルブランド「Ligaretta」
リガーレの20周年事業のひとつとして2023年1月に設立した「Ligaretta」は、バナーフラッグやイベントで使用した素材など「まちで役割を終えたもの」を用いて、洋服やトートバッグ、ノベルティとして新たにまちへと循環させるアップサイクルブランドです。
ブランド設立1年目は夏と冬に展示販売会を開催。商品を売るだけでなく、ブランドコンセプトのアピールや、デザイン設計の段階から製作に伴う廃棄物を10%以下にする工夫なども紹介しています。また、展示販売会場でリガーレの会員企業である株式会社スタートラインが取り扱う焙煎コーヒーを提供したり、商品開発に高級宝飾ブランド「ヴァン クリーフ&アーペル」が出稿したフラッグを使用したりと、関連企業や団体との連携も進んでいます。こうした取り組みを踏まえ、担当者は「Ligarettaを通じたコミュニティ形成を行い、街の個性の演出や、課題解決にも取り組み、Ligarettaを通じて丸の内のファンになってもらえるようにしたい」と今後の展望を語りました。
◆DMO東京丸の内Day
2018年10月に発足したDMO東京丸の内は、2023年度に設立5周年を迎えました。それを記念して2023年10月、「DMO東京丸の内Day」と題した記念イベントを開催しました。
会場となったのは北の丸公園内にある科学技術館の屋上で、ユニークベニューとしての活用は初めてということもあり、今後のMICE誘致に活かすための実証実験も兼ねられました。会場の運営は、DMO東京丸の内の会員企業であるザ・ペニンシュラ東京、帝国ホテル東京、東京會舘、東京ステーションホテル、パレスホテル東京が密接に連携して対応。丸の内らしいおもてなしを提供し、約150名の参加者に楽しんでいただきました。「多くの会員企業にご協力をいただいたイベントで、科学技術館の活用の仕方も見えてきました。この経験は実案件にも活かしていきたいと思います」と、担当者は手応えを語りました。
◆DMO東京丸の内 国際会議MICEの誘致事業
2023年度のMICE誘致事業は、前年度比約20%増となる181件のお問い合わせをいただき、コロナ後順調に推移しています。特筆すべきは、Webサイトからのお問い合わせだけでなく、口コミによる引き合いも増えている点です。これはDMO東京丸の内の認知が広がっていることの証明だと言えるでしょう。「それ故に一つひとつの案件の内容が複雑化してきていますが、大変チャレンジングな日々を送ることができ、とても可能性を感じています」と担当者は充実感を語りました。
2023年度に対応した案件の中でも象徴的だったのは、それまで横浜で開催されていたものを戦略的に誘致した「サステナブル・ブランド国際会議」、日本のフィンテックマーケットの競争力をPRするために金融庁が主導した「Japan Fintech Festival」、学会と博覧会含めて約4万人に参加いただいた「日本医学会総会」など、複数の大規模案件に対応したことでした。
◆DMO東京丸の内 エリアプロモーション
DMO東京丸の内では、2023年度よりデジタルマーケティング専任担当者を採用し、InstagramやFacebookなどのSNS、月1回発行のメールマガジンなど、デジタル領域でのプロモーション活動を強化しています。
エリアMICEを提案していくためにリアルでのコンテンツ開発にも取り組んでおり、出光美術館と協力したアートコンテンツや、皇居ランプログラムの策定を進めています。また、DMO大阪梅田と共に、丸の内と大阪・梅田のまちづくりと建築の歴史を巡る連携ツアーなども実施しました。
プロモーションは国外にも展開していて、スペイン・バルセロナや、オーストラリア・メルボルンで開催された商談会に会員企業と共に参加。それぞれ3日間で30〜50件の商談を行うなど、海外からの案件獲得の種まきに取り組んでいます。
◆有楽町アートアーバニズムYAU
YAUは、大丸有エリアにアーティストを組み入れることで創造とイノベーションを引き起こし、大丸有エリア、そして東京自体の魅力向上を目指すアートプログラムです。2023年度は「アーティストの活動の場を日常的に街につくりだす」を目標に掲げて活動を展開し、ビジネスとアートの接点づくりや協働の機会を作っていきました。具体的には、3組のアーティストを大丸有エリアに招待し、この街を舞台にさらに深い創作活動を行っていただきました。その他にも、アート×ビジネスをテーマにしたトークイベント「YAUサロン」を開催。アートの取り組みを展開する企業人や、行政や研究者の方々をお招きし、アートと企業、アートと社会の可能性について議論を交わしていきました。
また、YAUは「アートと社会をつなぐ」ことに力を入れています。アーティストだけではなく、展覧会を企画するなど、アートの現場を円滑に回すマネージャーなどにもスポットを当て、彼らのような中間人材と呼ばれる役割の人々の育成にも注力しています。
◆東京ビエンナーレ
東京を舞台に2年に1度開催される国際芸術祭「東京ビエンナーレ」にリガーレも参加。大丸有エリアで実施したプロジェクトの紹介や、ワークショップを開催しました。
リガーレビジョンとKPI
2023年度の活動の中でも、設立20周年を迎え重要な取り組みとなったのが、「リガーレビジョン」の策定です。
大丸有エリア・周辺エリアにおける再開発、エリアマネジメント分野における技術進化や価値観の移り変わり、大丸有エリアで活動する人々の多様化など、これからの20年で起こるであろう様々な変化を敏感に捉え、活動を進める中で迷いが生じた際に立ち戻るため、そして目的を遂行するために、リガーレビジョンは作られることとなりました。
策定にあたっては事務局のほかに、YAUに所属する写真家の小山泰介氏にもご参加いただき、新しい姿を考えていきました。その中で、今後追い求めるべきものとして掲げたのが次の2つです。
①本物・本質の街である大丸有を選んだ人々の自己実現を支援するコミュニティ形成
②大丸有の中だけでなく周辺エリアとも繋ぐ公的空間活用を進め、人々が未だ見たことも経験したこともない活動の場(舞台)を創る
この2点をよりわかりやすく、明確に伝えるメッセージとするため、大丸有エリアに関して議論を交わして理解を深めると同時に、これまでのリガーレの活動内容を振り返りながらできることやすべきことを整理していきました。そしてできあがったビジョンが「幸せな−みち−を結ぶ。」というものです。リガーレの事務局長である大谷典之は「丸の内らしさがちゃんと描かれているのかについては、注意深く考えていきました。今後はステークホルダーに対する情報発信と共に、事務局メンバーをはじめとしたインナーブランディングのためにもビジョンを活用していきたいと思います」と語りました。
また、このリガーレビジョンを広めていくための施策としてベースフラッグを掲出することとなりました。ベースフラッグは、リガーレが目指すまちづくりの思想や思いを込めたメッセージを盛り込んだデザインとしており、大手町川端緑道から有楽町のザ・ペニンシュラホテル東京まで、232枚のフラッグを外部からの広告出稿がない時期に掲出することとなっています。
2023年度のもうひとつの重要事項となったのが、各取り組みを定量的に評価・効果測定するためのKPIの設定です。イベントの参加者数や来場者数、満足度、特性といったデータを収集し、広告価値など数字に換算しながらフィードバックと改善を実施。今後も定期的に効果測定を行いながら、取り組みの精度を上げていく予定となっています。
2024年活動方針
2024年度は、前述したリガーレビジョンに則って活動を展開していくこととなります。
活動の柱のひとつである「本質に挑戦する人々の思いや道を結ぶ」という考えの下、大丸有の価値をリアルに体験する機会の拡充や、有楽町アートアーバニズムYAUをリガーレの他の活動と組み合わせることでさらに強化していく予定です。
もうひとつの柱である「この街に未知なる舞台をつくる」というテーマに関しては、従来の公的空間活用を超えることを目指し、丸の内仲通りのアーバンテラスを軸とした日常的な活用や、Marunouchi Street Park開催エリアを従来の3ブロックから5ブロックに増やすなど、様々な挑戦を検討しています。
さらに、「BEYOND都市型エリアMICE」と称して、これまでの都市型エリアMICEのあり方を超え、大丸有におけるMICE開催にさらなる付加価値を付ける取り組みを行っていくことを想定しています。例えば、DMO東京丸の内で科学技術館屋上を初めてユニークベニューとして活用したように、これまでにない場所でのMICE開催を模索したり、日比谷公園など周辺エリアと有機的な連動をしたり、サステナビリティに配慮した運営などに注力していく予定です。
最後に事務局長の大谷は、「2024年は2つの柱を掲げ、様々な活動を展開していきます。リガーレのビジョンを実現するために1年間走っていきたいと思います」と意気込みを語りました。
Photo & Writer:Tomoya Kuga