リガーレが2023年に立ち上げたアップサイクルブランド「Ligaretta(リガレッタ)」。6月29日(土)〜7月10日(水)に、その3回目の展示会が「“まちを纏う”展―都市型サーキュラーとまちづくり―」と題して開催されました。
「Ligaretta」は、大丸有エリアにおいて、まちでの役割を終えたものを再生し、新たにまちへと循環させることを目指したファッションブランド。大丸有エリアで出た廃棄されゆくものを「まちの物語が沁み込んだ素材」と考え、廃棄量を減らすだけではなく、まちの物語をつないでいくこともコンセプトにしています。
今回、「Ligaretta」としては初めての会場となる「GOOD DESIGN Marunouchi」で展示会を開催しました。同会場は身の回りや社会のさまざまな課題に対してデザインで未来を描くスペースとして数々の展示実績を誇ります。「Ligaretta」が展開するプロダクトは大丸有エリアに掲出されたバナーフラッグを主な素材としていますが、「GOOD DESIGN Marunouchi」が面する丸の内仲通りもまさにそんなバナーフラッグが掲出されている通りの1つ。ブランドにとって意義のある場で、足を運んでいただいた多くの方にもアップサイクルを実感していただきながらプロダクトをご覧いただくことができました。
展示会で並んだプロダクトは、スニーカー、トートバッグ、ネクタイ、キャップ、名刺入れなど。また、今回新たなラインナップとして、ピンズ、スマホストラップが登場。ピンズは、他の商品を製造する際に出た端材(フラッグ素材のロス10%以下の部分)から製造しており、より一層余すことなく素材を活用し、完成しています。ジャケットにさりげなくつけられるプロダクトが欲しいという街の声からできたプロダクトで、ビジネス街丸の内ならではのアイテムでもあります。
「Ligaretta」のプロダクトは、バナーフラッグに「シークレット地紋」を施すことで元のデザインをカムフラージュし、知的財産権の壁をクリアしています。このシークレット地紋には、これまで幾何学模様を基本とした柄や千鳥格子などがありましたが、今回新たなラインナップとしてバナーフラッグをモチーフにした柄がお目見え。
また、展示品の中には、ダンサーや女優として脚光を浴びるアオイヤマダさんがブランドのコンセプトビジュアルで衣装として着用したコートやスカートもあり、来場者の目を引いていました。
会場では、実際のプロダクトの展示だけでなく、ブランドにまつわるストーリーを解説、発信するパネル展示も。「まち」起点のアップサイクルブランドの紹介やまちの物語が沁み込んだ素材循環の仕組み、大丸有エリアで展開していく「都市型サーキュラー」についてなど、訪れた方にプロダクトの背景を知っていただくことを目指しました。
展示期間中の7月1日にはDMO東京丸の内で、「まちを纏う。〜Ligarettaの目指す都市型サーキュラー〜」と題したトークイベントも実施。ゲストスピーカーとしてアートディレクターの永井一史さん(HAKUHODO DESIGN 代表取締役社長/多摩美術大学教授)を迎え、モデレーターとして「Ligaretta」のアートディレクションを担当する守田篤史さん(株式会社ペーパーパレード共同代表)、スピーカーとして「Ligaretta」企画者である大丸有エリアマネジメント協会の長谷川春奈が登壇し、都市型サーキュラーについてデザインの視点を交えながら紐解いていきました。
イベントではまず長谷川から、「Ligaretta」の取り組みや「Ligaretta」が目指す都市型サーキュラーについて紹介。「都市型サーキュラー」はLigarettaチームがつくった造語です。サーキュラーエコノミー(循環型経済)のなかでも、都市ならではの課題や素材を循環させていくためのアプローチを「都市型サーキュラー」とし、人々の経済活動によって都市や社会を経由した素材を循環させて、廃棄量の削減を目指しています。
続いて永井さんからは、ご自身が取り組まれているプロジェクト「すてるデザイン」についてご紹介いただきました。同プロジェクトは「“つくる”ことで産業を支えてきたこれまでのデザインから“すてる“を考え社会や産業を支えていくデザインへ」という理念のもとに2021年に多摩美術大学で立ち上げたられたものです。
「変化をもたらすことができるのはデザインの持つ創造的な力なのではないかということを信じてやっている」と永井さん。「すてたものをデザインする」(いわゆるアップサイクル)だけでなく、「すてる前提をデザインする」(そもそも製品自体を循環できるように計算してデザインする)、さらには「すてるエコシステムをデザインする」(回収する仕組みや循環トータルデザインまでデザインする)というところまでを範疇に考えているといいます。
「すてるデザイン」のプロジェクトのもと学生やアーティストが製作したという、ユニークな作品の数々も具体例を挙げて紹介していただきました。例えば「廃棄資材の価値を100倍にする」というテーマのときには、ふだん工芸を学んでいる学生が、エアコンの部品を解体して1つのパーツを集積させ、金属でできただるまを製作。また、ごみをテーマにした展示では、スマホの回収率が低いことに目をつけ「スマホに対する思い入れを供養する」という考えのもと、申し込むと供養のためのキットが送られてきてそれを寺に送るとその後再生に回される「スマホ供養」というアイディアを出した学生もいたそうです。
また「すてるデザイン」では企業や自治体とも連携。ブックオフとの協働事例や、「リサイクル率日本一」といわれる鹿児島県大崎町と協力した事例などもご説明いただきました。
その後の、永井さん、守田さん、長谷川のクロストークでは「社会課題とデザインがどう向き合うか」という話題に。
守田さんから「Ligarettaの場合は、“美しいデザインだからこそ街の人に参画してもらえる”という考え方を大切にしている」という話があると、永井さんも「我々側がアップサイクルやリサイクル、サステナブルが大事だと言っても、届ける相手側がそこまでの関心やリテラシーを持っていなかった場合はどうするかというと、やはり手に取りたい、やってみたい、面白い、かっこいいなど、その人の気持ちが動くかどうかということに着目する。それがデザインの一番大事なところではないか」とご意見を述べられていました。
永井さんからデザインの力を感じた例として、ブックオフとの協働プロジェクトの際、アップサイクルした製品のプロトタイプを見たときに「みんながハッとした」というお話も。「具体的な形になってハッとわかる」という言葉に、長谷川も深く共感。「Ligaretta」も当初はサンプルとして1つのバッグを作ったことから始まっています。「1つプロダクトがあることで、『これすごくいいよ』『もっとこうしたらいいんじゃない?』と多くの方が意見をくださり、結果的に『リガーレが20周年を迎えるときにブランドにしたらいいよ』という話になった。デザインが素敵だということは人の心を動かすし、1つプロダクトがあるだけでみんなの心が高まるということを実感しました」(長谷川)と「Ligaretta」誕生の逸話を明かしました。
永井さんから「Ligaretta」が取り組む都市型サーキュラーの面白さや難しさについて質問をいただき、「知的財産権など都市ならではの課題がある一方、都心ならではの面白い素材がある」(守田さん)「大企業が多いエリアならではで、会社に届く胡蝶蘭の花を使って何かできないかという話をいただいたりすることも」(長谷川)とこれまで得た知見や今後の課題などをお話しさせていただく場面も。
最後に永井さんから「デザインにできる可能性というのがまだまだいろいろなことにあると思う。いろんなデザイナーの人がこういう問題にも目を向けて力になってくれるとよりパワーを増していくと思うので少しずつ広めていけたら」とお言葉をいただき、イベントは締め。学びの多い1時間となりました。
Writer:Nebashi Asumi