「子どもの思い出に残る遊び場にはできないか――?」「いやいや動物的身体感覚を取り戻す場所にしたいんだよ」「まずくつろぎと休憩だろう?」「日本なんだから縁側なんてどうだろうか」………これ、何だと思いますか? 実は、すべて丸の内仲通りの“新しい使い方”の提案です。丸の内の目貫通りであり、大手町から有楽町までも貫く大丸有の活性化のシンボルとして、リガーレでも未来の可能性を探っている丸の内仲通り。その利活用のアイデアを試す実証実験「丸の内仲通り利活用アイデア実験祭 Marunouchi Naka-dori PROTOTYPING FESTIVAL」が、7月23日にワンデーイベントとして開催されました。冒頭の言葉は、実際にこの日に丸の内仲通りでカタチにされたもの。一体どんなアイデアが具現化されたのでしょうか。
光るアイデア、びっくり箱のようなまちに
この実証実験は「タクティカル・アーバニズム・スタジオ2017」(以下、TUS)との共催で行われたものです。「タクティカル・アーバニズム」とは、まちづくりの手法のひとつで、従来の手法である「ビジョン→計画→ハード整備」とは異なり、まずアクションから始め、検証と学び、そして再びアクションを繰り返すサイクルを回して、より有機的なまちづくりの実現を目指す手法。TUSはその学びの場として3カ月の集中講座を開講しており、その実践の場として今回丸の内仲通りを選んだということになります。
TUSを実施しているのは公共空間の利活用に特化したウェブマガジン『ソトノバ』。受講生は、不動産、ゼネコン、コンサル、学生など多岐に渡ります。この受講生たちが4つのグループに分かれ、丸の内仲通りの新しい利活用法を提案しています。
この日丸の内仲通りに登場したのは、「日本の居心地のいい空間」(Aグループ)、「なかやすみの家」(Bグループ)、「30YARD ZOO」(Cグループ)、「こどもも」(Dグループ)。「日本の居心地のいい空間」は、道路に人工芝を敷いてゴザ(畳表)のクッションを並べたもの。縁側も設けてくつろぎの空間を演出します。風鈴や蚊取り線香など日本の夏を彩る小技もニクい。「なかやすみの家」は足湯ならぬ“足水”とハンモックで、家のような休みと憩いを生み出しました。一風変わった「30YARD ZOO」は、「動物的身体感覚」を取り戻すことを目的に、植物の感触を「わしゃわしゃ」と手や足で感じる空間を作りました。動物のフィギュアと遠近法を使ったトリック写真を撮影できるのが名前の由来。「こどもも」は、その名の通り子どもにも楽しめる街、公共空間の在り方を模索するもの。オセロやハンモック、ウィンドウチャイムや風船、浮き輪など、子どもが喜ぶものを取り揃えました。
どのグループもキラリとしたアイデアが光っており、街行く人々も思わず足を止めて見入ったり体験したりしていきます。癒やしの空間に「ホッとさせられる」という感想から、「買い物に来ると子どもが退屈してしまうから、こういうのがあると助かる」「街が親しみのあるものに変わった」という意見などが聞かれました。
未来の丸の内仲通りの姿へ
※左から三浦詩乃氏(横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院)、泉山塁威氏(ソトノバ編集長、東京大学先端科学技術研究センター助教)、荒井詩穂那氏(ソトノバ副編集長・首都圏総合計画研究所)
「歩行者のために、新しい公共空間の使い方を提案したかった」と話すのは、ソトノバ編集長で、TUSをプロデュースする東京大学先端科学技術研究センター助教の泉山塁威氏。泉山氏は大丸有が長年まちづくり、公共空間利用に取り組んでおり、「素晴らしい実績を残してきた」ものの、「土曜・日曜の利用法でもっと多様なアクティビティの提案ができるのではないか、商業・オフィス以外の多様なまちのにぎわいや用途を生み出すことができるのではないかと感じていた」と話しています。今回は、特に子どもへの視線や、「ボラード」(交通を規制するための杭などを指す)のような、車が通らなくなったときに意味が変わるものを、いかに活用するかといった視点・テーマも盛り込んだそうです。
リガーレとしても「道路が進化したときに、どのような空間になり得るのか、未来の空間のあり方を考える良い機会になった」と事務局長の藤井が述べています。大丸有は整然としたきれいな街であるがゆえに、「異質なものを取り入れて、面白いと言ってもらえるものを」と今回の実証実験に期待を寄せています。
7月23日の実証実験を終えて25日には各チームからの成果発表と講評も行われています。利用シーンや数値の記録も交え、どのような道路・公共空間利用が、どのような価値を生み出しているのか、どのように受け止められたのかが発表され、今後の仲通りの在り方について示唆を与えてくれるものとなりました。
ソトノバでライターも務め、今回は実証実験の評価計測などを担当する、横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院の三浦詩乃氏は、日本と欧米のまちづくりの違いについて“公”観点に基づくソーシャルワーク的発想の有無であると指摘しており、大丸有も「単に人をいっぱい集めて不特定多数のにぎわいをもたらすだけではなく、社会性のある顔の見える関係を」と話しています。商業目的だけではない、本当のまちの姿とはどんなものなのか。これから丸の内仲通りがどのような通りに進化するのか。そして大丸有がどのようなまちに変わりうるのか。この実証実験の成果が反映されることに期待したいと思います。