コロナ明け初となる「 Marunouchi Street Park 2023 Summer 」
“心踊る空間”に込めた想いと振り返り。

丸の内で働くビジネスマンの日常的な癒しの場であり、観光客にとっては東京の今を感じられる上質な場所。さらに、丸の内仲通りの今後のあり方や活用方法を検証する社会実験の場である「Marunouchi Street Park」。5年目、8回目となる今回は、コロナ明け初めての開催ということで、7月27日から9月21日の期間中、多くの来場者に恵まれた。開放的なひと夏のハイライトと次回への抱負を、大丸有エリアマネジメント協会(リガーレ) の清水菜緒と髙山円香が振り返る。
コロナ明け初の夏、きっとみんな弾けたいだろうと

――5年目8回目の開催ですが、まずは今回のMarunouchi Street Park 2023 Summerのキャッチコピー「Popping Summer Street」に込めた想いを教えてください。

清水:一番大きいのは、本格的にコロナ禍が明け、初の開催だったという点です。マスクを外し、人々の日常生活が本当の意味で戻ってきた最初の夏。きっとみんな弾けたいだろうなと思い、「Popping Summer Street」と名付けました。

――コロナ禍でのMarunouchi Street Parkはどんなコンセプトだったのですか?

清水: 2020年夏以降はコロナ禍であることが1つのテーマでした。例えば「屋内の‘密’を‘疎’にする」をテーマに、密を避けるための屋外スペースの使い方を提案したり、人と人とが向き合わずに交流ができる什器計画を行ったりと工夫していましたが、今回はそういった制限は一切なし。自由に考えることができました。

――特に力を入れた取り組みはありましたか?

清水:2つあって、1つ目は「Try」をテーマにしたBLOCK3(丸の内パークビル•明治安田生命ビル前)部分。ラグビーW杯に向けて、機運醸成を高めるための空間作りを行いました。こういう場合、これまでは企業や団体にスペースをお貸し出しして、内容はある程度先方に決めていただくことが多いのですが、今回はラグビー日本代表のワンチーム感をいかに出していくか、企画段階から一緒に手がけていったのも思い入れのある理由です。最終的には、丸の内仲通りの縦に長い空間を活かして、背番号入りのラグビースイング(ブランコ)を15個縦に並べていきました。

高山:期間限定でラグビー縁日も開催され、輪投げなどのゲームを楽しめたり、飲食や物販ができたりするスペースも展開しました。ここではラグビーファンはもちろん、ラグビーに興味がない人にも楽しんでいただけるように、内容をかなり吟味しました。

清水:リガーレはまちづくりをする会社ですので、“PRのためになんでもする”というスタンスではないんです。何も知らない街ゆく人にとって、ネガティブな違和感や唐突感がないようにすることは普段からとても大事にしています。

――ここでやる意義というものをよく考えられているのですね。


丸の内仲通りのビル風を逆手に取って風力発電に挑戦

清水:もう一つワクワクした取り組みが、風対策です。丸の内仲通りって、ビル風がすごく強いんですよね。パラソルなど、強風によって置くのを諦めてきたアイテムがいくつもあるんです。そんなネガティブな要素をポジティブに変換するため、今回風力発電と太陽光発電を備えた屋外型給電スポット「寄り道テーブル」を設置しました。

――素晴らしい発想の転換ですね。

清水:ただ、実際にやってみるとみなさんのスマホやパソコンを充電するためには、もっともっと強い風や、より高さのある装置が必要になることがわかりました。自然のエネルギーだけで賄うことはできなかったんです。ストリートパークは社会実験の場でもあるので、1度トライ&エラーを繰り返すことで、我々に知見が溜まり、より仲通りにふさわしい空間に変化を遂げています。

――「Stay」がテーマになっているBLOCK1(丸ビル、郵船ビル、三菱商事ビル前)設置された「寄り道テーブル」ですね、私も何気なく使っていました。そんなトライアンドエラーがあったとは。

高山:同じBLOCK1には、このエリアでサステナブルな取り組みを推進する「大丸有SDGs ACT5」が循環縁日というブースを出展する他、SDGsに関するプロモーションを代わる代わる実施していたのですが、ここも印象的でした。例えば、PatagoniaとGOLDWINとThe North Faceの共同リペアイベント。本格的な修理の傍ら、使わなくなったTシャツからマイバックを作るワークショップを開催していたのですが、ミシンを使わず15分くらいで簡単にできるうえ、予約不要でしたので、仕事中に立ち寄る人や見物をする人など、とても賑わいました。Patagoniaの“つぎはぎ号”という修理用車両がすごく可愛くて、街ゆく人が写真を撮ったりしている光景もしばしば見られました。

みんなが心地よく、質の高い「音」ってなんだろう

――実験的精神のあるMarunouchi Street Parkですが、今回やってみて、すでに課題となっているものはありますか?

清水:公共性を保ちながら、音の質をいかに高めていくか?をよく考えさせられました。「Enjoy」をテーマにしたBLOCK2(丸の内2丁目ビル、丸の内仲通りビル前)には、Marunouchi Street Parkのアイコンの1つとして、ここ何年かはピアノが毎回置かれていて、ストリートピアノとして街ゆく人に自由に楽しんでいただいていたんですね。でも、ストリートパークの周辺には商業テナントがたくさんあり、ドアを開けて営業されています。その上にはオフィスがあって、音についてはみなさん大変敏感なんです。

――確かに「音」って人それぞれ感じ方も違うでしょうし、いい塩梅を決めるのが難しそうですね。

清水:そうなんです。以前、視覚障害のある方に向けたイルミネーションツアーをやったことがあって、その際、参加者が耳からの情報にほぼ100%頼って周囲の様子を理解していることを知ったんです。それで、もっと音に関して意識的にならないといけないと感じていて。私は視覚優位なので、丸の内仲通りでも景観に関してはすごく細かく規定が設けられているんです。例えば街路灯のバナーフラッグ1つ出すにしても、色味が強いとか文字が見えないとか、ガイドラインがしっかりあって広告審査会もある。でも、心地よい音を規定するガイドラインって全然ないんです。今回は、丸の内仲通りの雰囲気に合う公式ミュージシャンをオーディションし、そこにエリアの就業者にも立ち会っていただきました。その結果、ピアノに限らずハープ、バイオリン、フルートなどいろんな楽器を奏でる21組のミュージシャンが採用され、音楽の幅と質が上がりました。

高山:以前は許可していたキッチンカーの発電機も今は基本NGにしているんです。

清水:発電機を使わないで営業できるキッチンカーは圧倒的に絞少ないので大変悩んだのですが、思い切って禁止にしました。当初は「発電機の音なんて気にならない」という声もありましたが、禁止すると静かな状態に耳が慣れるものですね。

――様々な試みを経て、Marunouchi Street Parkの音の質をあげることに成功したのですね。

清水:いえ、まだ課題はたくさんあって、今年もミュージシャンが演奏していない時間帯はストリートピアノを弾くことができるのですが、ストリートピアノっていつでも誰でも弾けるのが魅力の1つだし、ピアノを介した人々のユニークな出会いや面白さがあると思うんです。そういったハプニング要素は、私たちが手を入れてしまうと減ってしまう。また、今回は音量なども計測管理しているのですが、結果、近くにいかないと聞こえないっていう状況もあって、音って難しいと日々感じています。いろんな考え方がありますしトレードオフな面もありますので、より良いあり方を目指して、今度も色々な形で検証を続けていこうと思っています。


Marunouchi Street Parkらしい空間であるかどうか

高山:あと、「芝生」についても協議を重ねています。

清水:BLOCK3には芝生が敷いてあるのですが、緑の力もあって、ここに人が集中するんですよ。床面を自由に使えますので、ママたちが赤ちゃんを転がしていたり、外国人が寝ていたり、人気が高いんです。この芝生、2021年までは天然芝にこだわっていたのですが、コスト的にもメンテナンス的にも大変なので、昨年初めて人工芝も導入したんですね。で、思いのほか評判が良かった。今年は人工芝をメインにしているのですが、Marunouchi Street Parkって、高級感とか上質な雰囲気を大切にしているのに人工芝でいいのかな?というのは常に議論しています。色々な観点で検証していく必要があります。

高山:海洋プラスチック問題もありますしね。もしかすると検証や協議を重なる内に、思い切って芝は使わないという結論にもなるかもしれないですね。

――人気ある設備でも、ブランディングのためになくすことがあるんですね。

清水:今までは足し算していろんなことをお金もかけてやってきましたけど、持続可能な空間維持には必要で、時には引き算したりしながら進化を続けていきたいですね。

高山:ビルの合間にこういうリラックスできるスペースがあることが価値だという考え方もありますし、音楽を聞いたり、ご飯を食べたり、のんびりしたり多くの人が自由に過ごせることがパブリック空間の良さでもあるので、公共性と空間の質との兼ね合いを検証しながら、Marunouchi Street Parkらしさを追求していきたいと思っています。

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