大手町・丸の内・有楽町地区の地権者が、自ら街づくりを考えるために、東京都(区部)都市開発方針、千代田区の街づくり方針に則り、1988年に設立された「大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会」。
今回のシンポジウムのテーマは「FACE」。これまでの30年間の大丸有地区の街づくりを振り返り、これからの30年先を見据えた街づくりについて、各分野で活躍する方々がFACE to FACEで語り合いました。
左:NPO法人大丸有エリアマネジメント協会 理事長 小林重敬
中央:東京都市大学大学院環境情報学研究科 教授 佐藤真久氏
右:NPO法人大丸有エリアマネジメント協会 事務局長 藤井宏章
東証グランドホールで行われたシンポジウムの第2部では、「2030年代の大丸有地区におけるエリアマネジメントにむけて」というテーマでトークセッションが行われました。
街づくりは、安全安心から始まり、街並み、環境共生、賑わいづくりなどに発展していきます。最近の取り組みでは、そこからさらに企業の産業支援、よりクリエイティブな街を目指し、付加価値の高い活動へと進化していっています。
「街づくりの第一の目的は経済的繁栄だが、その地区の社会課題の解決にも同時に取りかかる必要性が出てきている」(藤井)
そこで、2015年に国連サミットで採決された「SDGs」という、世界規模で課題解決を目指す17の目標を取り込んだエリアマネジメントに世間の注目が集まっています。
まず始めに、大丸有エリアマネジメント協会設立から関わってきた理事長の小林重敬は、これまでの大丸有のエリアマネジメントの経緯を語りました。
大丸有エリアの関係者が集まって、街づくりの方針を協議し、それを行政側に伝える。民間と行政のこのような関係性が「社会関係資本の構築」であり、その時重要となるのが「互酬性と信頼」であると小林理事長は説明しました。それはつまり、一方だけが利益を得るのではなく、win-winの関係になる計画を立てながら、街づくりにおける「具体的なガイドライン」を用いることで、継続的な信頼関係を構築していくことが必要不可欠になるといいます。さらには、時代に合わせてガイドラインを作り変えていく柔軟さの必要性も指摘しました。
「SDGsを活用した地域の環境課題と社会課題を同時解決するための民間活動支援事業」委員長を務める佐藤真久氏からは、「SDGs」と「パートナーシップ」について話していただきました。
「今日までは、“ありたい”社会を目指せばよかった。人類が誕生してから、社会を良くしようと追及してきたが、昨今の未曾有の環境問題を振り返ってみても、“ありうる”社会にも対応していかなければならない時代になってきた」(佐藤氏)
SDGsの17の目標を達成するには、様々な複雑な問題に対して、テーマを関連づけて、それを統合的に解決していくという考えが必要だと、佐藤氏は語ります。
17の目標の中には「官民連携した市民社会のパートナーシップを奨励推進していく」という言葉が盛り込まれています。この「パートナーシップ」という言葉には、「様々な人や物による協働」の意味が内包されています。従来の同じような人が手を組むのではなく、例えば、国籍が違う者同士の「協働」や、年齢が異なる者同士の「協働」、多くの人たちが関わることによって、新しい課題解決と知識創造につながっていく、と佐藤氏は強調しました。
それを受けて小林理事長も、「エリアマネジメントの活動を始めるには、その地域の人々に参加してもらわなければならない。そして参加してもらうためには、価値観の違う人々が納得するようなテーマを掲げなければならない」と、パートナーシップの重要性を述べました。
さらに、佐藤氏は「大丸有には多様な企業があるので、複雑な課題を統合して解決できる素地がある。例えば、環境対策として都市農園を作り、そこで市民が都市活動に参加できる仕組みを機能させる、などである。いろいろな線的な取り組みが大丸有ならできる可能性がある」と、SDGsを取り入れたエリアマネジメントの展望を示しました。
「様々なセクターとのパートナーシップづくりに“SDGsの視点”を利用し、社会課題の解決に臨む段階に大丸有はさしかかっている。いかに、多様なタレントを持った人々や企業が集まる、世界から注目される様なビジネスハードになっていけるかということが非常に重要。多様性、異質性を持った人々を“無秩序”と捉えるのではなく、いかにエリマネに取り込むのか、そしてエリマネの地域の活力にしていくのかを目指しながら、引き続き活動を進めていきたいと思う」と、藤井事務局長は締めくくりました。
左上:NPO法人大丸有エリアマネジメント協会 副理事長 岸井隆幸
右上:一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会 理事長 谷澤淳一氏
左下:東京大学大学院情報学環・学際情報学府 教授 吉見俊哉氏
中央下:早稲田大学大学院経営管理研究科 早稲田大学ビジネススクール 准教授 入山章栄氏
右下:株式会社ライゾマティクス 代表取締役 齋藤精一氏
第3部では、パネルディスカッション形式で大丸有のこれからの街づくりについて、有識者5名による多様な意見が交わされました。
東京大学大学院情報学環教授の吉見俊哉氏は、まず歴史的な大丸有の成り立ちから、分断されてしまっている大丸有とその周辺の街についての問題から説明。高度経済成長時代の1960年代に、日本橋川の上にかけられた首都高による南北の分断線と、東京駅を中心に縦断する路線による東西の分断線ができているために、街の連続性が失われている点を指摘しました。
そして、話は江戸時代に遡り、大丸有地区はかつて武家地であり、大手町に隣接する神田は町人地で異なる文化を持っていることから、今も隣接する2つの街はそれぞれ異なる色彩を持っていると吉見氏は続けます。
「この分断された2つのエリアをつなぐことが、大丸有のこれからの発展につながる。その方法として路面電車を提案したい。時速10km〜20kmでゆっくりと走る路面電車は、街と乗り物が連続した同じ空間を保てる(関係性が維持できる)ギリギリの速度だ。自動車や鉄道のようなスピードではなく、スローな時間軸を取り入れることで、異なる街同士をつなげられるのではないか」(吉見氏)
早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄氏には、経営学者の立場から、イノベーションが起こる仕組みについて話していただきました。
インターネットの普及で、世界中に行き渡る情報量は増えています。一見すると、働く場所や住む場所による情報の違いはなくなっているように思えますが、むしろ逆だと入山氏は主張します。統計データの示すところによると、特定の都市に人や物や情報が集積しており、その一極集中はさらに加速。その最たる例がシリコンバレーだそうです。
「インターネットで得られる情報は誰にでも手に入れられるので、価値がない。そこで得られる情報は、ビジネスで勝負を決めないということだ。ビジネスで勝負を決める情報というのは、まさに今回のテーマである『FACE to FACE』から生まれる。知り合って、顔を合わせて、信頼関係を構築した上で、ここだけの話が出てくる。だから、この時代にあれだけシリコンバレーに企業が集まる」(入山氏)
また、イノベーションが起こりやすい都市は「ボヘミアン指数」が高いという統計データがあることも示しました。はっきりとした相関関係はわからないものの、多種多様な人が集まり、それを受け入れる社会素地のある都市はイノベーションが起こりやすいのではないかと入山氏は説明しました。
株式会社ライゾマティクス代表の齋藤精一氏からは、大丸有の再定義の必要性が提示されました。事前の大丸有に関するアンケートを例に出し、今回参加者から出された街づくりの要望はどこの都市においても出てくるものであり、これを全てクリアしようとすると東京が均質な都市となってしまう、と注意を投げかけました。むしろ東京の中でも大丸有をスパイキーな(尖った)エリアにすることが、東京全体の価値向上につながると主張。
これまでの話を受け、大丸有地区まちづくり協議会理事長を務める谷澤淳一は、大丸有で都市機能の全てを完結させる必要はないが、常に変わり続けることが重要だと語り、もともと武家地であったところから、日本有数の企業集積地となってきた積み重ねの上で、変えない部分と変えていく仕組みづくりの両方が必要だと意見を述べました。
今回のパネルディスカッションで、大丸有のアイデンティティとは何か、またそれを確立するためにも、周辺地域との連携、あるいは地方や海外都市との連携をつくり、イノベーションを起こす仕組みが必要であることが意見共有されました。 また、成熟した都市の歴史文化も含めた循環型社会の形成の必要性などの意見も出ました。
最後に、「30年前に大丸有の基盤を議論する際のレポートを読んでいたら、FACE to FACEが大事だと書かれていた。そしてリアルコミュニティをつなぐために、道路を交通空間から交流空間に変えようとあった。それはそれなりに進んできたと思う。これから我々はその空間を使って、世界中の人々と手を携えて新しい社会に向かって進んでいく。それが結果的に社会全体の役に立つということを信じて進んでいきたい」と、副理事長の岸井隆幸はこれからの大丸有のエリアマネジメントについての期待を語り、セッションを締めくくりました。
FACE to FACEで共有されるリアルなコミュニケーションから何かが生まれる、というテーマで開催された今回のシンポジウム。これからの大丸有地区エリアマネジメントについて、新たな希望の誕生を感じさせるものとなりました。